10月13日は、国連が定めた国際デー「国際防災デー」です。
この日がどんな日で、どのような経緯から制定されたかご存じでしょうか?
「名前からなんとなく想像できる」
「具体的に何かやっているの?」
このようなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
防災に関して日本はその意識が強いように思います。
では、世界の防災意識は?国際防災デーは何を目的としているのでしょう。
今回は国際防災デーについて、その歴史や目的、ジオパークとの関係についても紹介していきます
その日限りの防災意識ではなく、日常の中で継続的に意識できるよう、10月13日は1人ひとりが考えるきっかけになれば幸いです。
※この記事は室戸市地域おこし協力隊 観光ジオパーク推進課の山本が執筆しています

国際防災デーとは?

心音図と地球
国際防災デー(International Day for Disaster Risk Reduction)は、1989年に国連で制定されました。

その目的は、「危機意識と防災に関するグローバル文化を推進する」といったものです。
また、国際防災デーにはその年ごとにテーマがあり、そのテーマに沿う形で防災・減災について各国が様々な取り組みを行っています。
近年、世界各国で甚大な被害を及ぼす災害が毎年起きており、防災に関する取り組みはますます注目されてきています。

国際防災デーの歴史

国際防災デーの歴史
先述したように、「国際防災デー」は1989年国連により制定されました。
制定のきっかけは1970年に起こった巨大サイクロンによる被害です。
バングラデシュを襲ったこのサイクロンは50万人もの被害を出し、世界の防災意識は急激に高まりました
翌1971年に、国連は「グローバルな救援援助のメカニズム」構築に取り組みはじめます。
その後も「過去20年間における自然災害によって300万人もの人命が失われたこと」「災害による経済損失が230億ドルにのぼる」といった事実を踏まえ、国連は1990年代を「国際防災の10年」と定義。
以上のことから、1989年に国際防災デーは制定されました。
制定当初は毎年10月の第2水曜日でしたが、2009年から10月13日へと変更されています。

過去に発生した災害事例と各国の動き

これまでに世界各国で発生した災害事例を3つ紹介します。
災害規模・被災者数・被害額を知るのも大事ですが、各国がどのような教訓を得たのかはそれ以上に重要です。
被災による教訓は、その後の防災・減災へと役立てられ、災害による犠牲を確実に減らしてきています。
過去の災害事例を知り、それぞれの国がどのように復興したのかを確認してみましょう。

スマトラ沖地震(2004)

2004年に発生した「スマトラ沖地震」は、被災者は120万人、死者および行方不明者数は30万人以上、M9.1という大地震でした。
二次災害で発生した津波だけでも甚大な被害をもたらし、この地震における被害総額は78億ドルを超えるともいわれています。
地震の規模では1900年以降、「チリ地震」「アラスカ地震」に次いで3番目の大きさ。
地震発生後、国連から世界各国への支援要請により、日本を含む40か国から総額20億ドルの支援が行われました。
2009年にはこの地震で起こった津波を後世に伝えるため、災害時には避難所にもなる「津波博物館」が開館。
そのほか、津波で運ばれてきた漁船がそのまま残され、被災経験のない子ども達でも見るだけで伝わる震災遺構になっています

サイクロン・ナルギス(2008)

サイクロン・ナルギスは2008年にベンガル湾中央部で発生したサイクロンです。
ミャンマーに上陸した際には、10万人以上の犠牲者を出したといわれています。
これほどの被害が出た理由として、以下のような指摘が挙げられます。
  • 当時のミャンマー軍事政権が国際援助活動を受け入れることに消極的だった
  • 通常、ベンガル湾で発生したサイクロンが東に進んでミャンマーに上陸することは稀であり、防災に対して十分な備えができていなかった
国連とASEANの働きかけもあり、ミャンマー軍事政権も国際援助活動を後に受け入れ始めます。
復興に対しての道筋が見え始めると同時に、軍事政権の災害対応の稚拙さ、援助活動を受け入れるのが遅かったために広がった食料不足・物価高騰などの現実を認識しなければなりませんでした。
サイクロン・ナルギスは、ミャンマーの政治体制を変化させるきっかけにもなり、同時に国際社会における協力の重要性を改めて示すこととなりました

巨大台風ヨランダ(2013)

巨大台風ヨランダは、2013年11月4日トラック諸島近海で発生しました。
発生後はフィリピン中部を横断し、暴風雨や高潮などによって甚大な被害をもたらしました。
ヨランダによる被害は死者・行方不明者数8,000人を超え、近年のフィリピンで起こった災害では史上最大級といわれています
台風上陸時、現地の言葉に「高潮」を意味するものが無く、現地住民が理解できない「ストーム・サージ」という英語をそのまま使って避難を呼びかけたことが被害拡大の要因の1つです。
台風常襲国であるフィリピンであっても防災に関する意識の低さが指摘され、当時のベニグノ・アキノ大統領はヨランダ復興計画を策定します。
防災への重要性は、その後のロドリゴ・ドゥテルテ大統領にも引き継がれ、2017年~2022年までの災害対策予算を5倍に増加。
ヨランダの被災以降、国と国民が防災の重要性を認識し、フィリピン全体が変わるきっかけとなりました。

より良い復興:Build Back Better(ビルド・バック・ベター)

Build Back Better
防災に関する世界標準の言葉に「ビルド・バック・ベター」という言葉があります。
直訳すると「より良い復興」で、2015年に仙台で開催された第3回国連防災会議で提唱されました。
災害が起こったあと、単なる復興・復旧ではなく「より災害に強い状態」を目指すことを目的にした考え方です
上記3つの災害例も、その後の国や人の動きはビルド・バック・ベターに合ったものと考えられます。
近年では、新型コロナウイルスの影響で発達したネットワーク技術と、それによって新たなライフスタイルが形成されていったのもビルド・バック・ベターの一例といえるでしょう。
また、ビルド・バック・ベターはSDGsとも関係があります
SDGs目標11「住み続けられるまちづくり」において、復興の際にビルド・バック・ベターの考えを都市計画等に取り入れられれば、ゴール達成のために非常に有効です。
災害後により強靭な準備をし、より良い復興を目標とするビルド・バック・ベターは、世界防災の基準となっています。

国際防災デーとジオパークの関係

国際防災デーとジオパークの関係
この項目では、国際防災デーとジオパークの関係について紹介していきます。
自然災害とジオパークは切っても切れない関係にあり、その地域に住む人たちの防災意識だけでなく日常生活においても重要な意味を持ちます。
ジオパークが行う防災教育」「室戸ユネスコ世界ジオパークと防災」について確認してみましょう。

ジオパークが行う防災教育

ジオパークのある地域は防災教育に適しており、学校教育にも取り入れられています。
土地の地質・地形というのは、長い年月をかけて作り上げられてきたものであり、それは多くの自然災害を経て出来上がる場合がほとんどです。
短期的な目で見れば悲惨な災害も、長期的に見ればその土地に大きな恵みをもたらしてくれます
ジオパークもその例であり、学校教育においては「自分たちの住む地域を知れる」ことに加え、自然と防災意識を高められるきっかけになります。
観光地としての側面もあるジオパークは、楽しみながら自然と災害に強い地域社会を作る一端を担っているのです。

室戸ユネスコ世界ジオパークと防災

ブログ著者が住む高知県室戸市にある「室戸ユネスコ世界ジオパーク」の取り組みについても紹介します。
室戸は地震によって大地が隆起し、長い年月をかけて人が住める土地へ変化していきました。
そのため、地震に対する防災意識が高く、さまざまな取り組みが行われています
※下は昨年の国際防災デーに行った室戸ユネスコ世界ジオパークの取り組みをまとめたものです。

今年も室戸世界ジオパークセンターでは、10月13日より企画展国際防災デー2023-レジリエントな未来のために」を2F フリースペースで11月5日まで開催しています
期間中に室戸世界ジオパークセンターにお越しの際は、ぜひこちらも確認してみてください。国際防災デー2023_展示
国際防災デー2023_3
国際防災デー2023_展示2
企画展「国際防災デー2023 —レジリエントな未来のために」IDDRR 2023–For a Resilient Future | Facebook

地震・津波観測システム:DONET2

DONET2(Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis 2)は、今後40年の間に高確率で南海トラフで発生するといわれている南海地震と、それによって引き起こる津波を観測・監視するため、2015年より運用が開始されました。

特定の海底に敷設されたケーブルで観測を行い、地震が発生すると陸上観測点よりも、最短で10数秒早く検知し警報を発します
その情報を最初に受け取るのが室戸世界ジオパークセンター敷地内にある陸上局です。
ジオパークセンター1Fでは、DONET2に関する説明に加え、実際の観測データをリアルタイムで確認できるようになっています。
室戸世界ジオパークセンター:DONET2

室戸世界ジオパークセンター:DONET2_2

室戸世界ジオパークセンター:DONET2_3

佐喜浜町津呂津波避難シェルター

室戸市の佐喜浜町には、日本で唯一の津波避難シェルターが建造されています
室戸のほとんどの住宅域は、海と山に挟まれた小さな範囲です。
そのため、大地震が発生し津波の危険が迫ったとき、避難シェルターは周辺住民にとって命を守る砦となります。
観光施設ではないため普段は公開されていませんが、防災教育プログラムにも利用される大事な施設です。
室戸ユネスコ世界ジオパークのYouTubeチャンネルで詳しく解説されているので、そちらもぜひご確認ください。

国際防災デーで意識したいこと

国際防災デーの目的
国際防災デーに私たちは何を意識すればいいのでしょうか
普段の忙しい生活のなかで、防災への意識はどうしても薄れがちです。
国際防災デーでは、無理なく毎日意識できる防災意識を養うことが重要になります。

自分の地域について知る

自分が住む地域を知るだけでも防災意識を高められます。
たとえば、地域が何か防災イベントを行っているか調べたり、ハザードマップを確認してみたりしましょう。
国際防災デーでは、無理なく日常生活と絡め、災害について考えることが重要です
これは次に紹介する「フェーズフリー」という考え方にもつながります。

フェーズフリーなアイテムを身につける

フェーズフリーとは、平常時・災害時のどちらでも役に立つサービスや価値を意味する言葉です
身近な物であればトイレットペーパーやラップなどが挙げられます。
いつ起きるか分からない災害は、どこか他人事のように思ってしまうものです。そういった意識を否定せず、どのような状況に陥っても生活の質を確保できる道具を身につけておくことが大切です。
たとえば「平常時:食料品店→災害時:食料保管庫」「平常時:銭湯→災害時:みんなの水場」など、施設を災害時に重要な拠点として利用することを予め決めている地域もあります。
以上のように、フェーズフリーに関する知識があれば緊急時の行動にも役立つでしょう。

まとめ:10月13日は防災について考えよう

国際防災デーについて考えよう
以上が国際防災デーについての解説になります。
通常の防災意識は避難訓練などで、それ以外の「個人レベルでの防災意識」を国際防災デーで考えることが重要に思いました。
国際的にどのような災害が起こったのかを知ること、ビルド・バック・ベターという考え方など、普段あまり考えない点についても意識していきたいですね。
また、フェーズフリーという言葉も紹介しました。
平常時・災害時どちらでも役に立つ道具を身につけておけば、それだけで防災につながります
国際防災デーはさまざまな知識や考え方を学べる機会です。
10月13日は防災について考えてみましょう。